アニメ私塾流 最速でなんでも描けるようになるキャラ作画の技術 by 室井康雄

人体

基本情報

著者:室井康雄(アニメ私塾)
出版:エクスナレッジ
発売:2017/11/16
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レベル:初心者向け
傾向:感覚・・〇・・理屈

<この本でわかること>
✓人体の基礎的な表現
✓上達のための「模写」のやり方
✓レイアウトと視線誘導

人体作画本のクラシック、「アニメ私塾」のノウハウ集

元スタジオジブリ、『ヱヴァンゲリオン 新劇場版』、『電脳コイル』などに参加した敏腕アニメーター、室井康雄さんによる作画本です。「アニメ私塾」というオンライン教育コミュニティも運営しており、本書はその中での知見が詰まった一冊です。

アニメ私塾は塾生のレベルのも非常に高く、プロも多く参加してます。こちらのFGO二次創作アニメはSNSでも大ヒットしましたが、元はアニメ私塾の課題だったそうです。

本書は人体の作画については基本的なプロモーションから練習の進め方、考え方まで掲載されています。例えば室井さんは一貫して上達に向けて、模写の重要性を説いています。模写といってもやり方は色々あるのですが、本書はその手順についても細かく解説してます。例えば、初心者のうちははじっこから描きはじめて、画面に対して絵が小さくなりすぎたり、逆にはみだしたりします。

これを避けるために、最初に比率を意識してプロポーションを決めていく方法を提案しています。この大局的に考えていく進め方は、左脳的なアプローチにもなるので最初は難しいかもしれませんが、慣れていくと描くのが早くなりますし、単純に正確性が上がります。

また、これでも難しい人のためには補助線を使う方法など、レベルの下げ方も段階的に説明しています。基礎的な模写の描き方がわかってくると、これを起点に新しい表現にどんどんチャレンジしていけるのです。イラストの練習は苦手意識をいかに克服して、継続的な練習を続けていけるかが重要になるので、本の冒頭でこのようにハードルを下げる描き方を説明しているのは素晴らしいです。

入門者向けでありながら一生使える考え方

本書は人体表現を中心に、段階的にステップを上げてくれているのが特徴です。最初はただの円からスタートして、顔を描きます。比率を意識することでバランスを補完しながら進めることができます。身体を描く場合も同様に、比率やプロポーションを学びながら、応用していきます。

ご本人がアニメーターなので、アクション系はむしろめちゃくちゃ得意です。棒人間でも実に生き生きとした作例も拝むことができ、表現の技巧に感動しながら読み進められます。

トピックスとして、イラストを描き慣れている人でも知らないようなテクニックもかなり紹介しているのも嬉しいです。例えばポーズを描くときに手先や足先から描く方法ですね。「ご飯を食べる」ポーズであれば、まずは顔と手を描いてから、中間地点の腕で補完していくという感じです。このような考え方は最終的に出力したいイメージをより明確に意識する方法であり、自分ではなかなか編み出しにくいです(私は目からウロコが落ちました)。他にも画面にポーズを綺麗に収める方法や、写真模写のコツなどかゆいところに手が届きます。

アニメ現場には体系的なノウハウがある

絵は基本的には考えて繰り返し描くことでしか能力が上がらないものですが、手順や教科書的な進め方にも十分な有効性はあるのです。そういったノウハウを実践的に学習できるのが、アニメスタジオです。アニメーション制作は集団制作なので、スタッフの技術を底上げする様々な形式知が存在します。もちろん昔ながらの「見て覚えろ」のような徒弟的なコミュニケーションもゼロにはなりませんが、アニメスタジオ出身のクリエイターは教育ノウハウについても一線級であることが多いと思います。

人物もアニメスタジオにおいては頻出のモチーフになるので、何十年にもわたり蓄積した技術の結晶があるのです。アニメーションは若い文化ではなく、60代や70代のアニメーターも数多く存在しています。スタジオジブリの宮崎駿さんが2024年時点で83歳です。セル画のアニメーションだけで歴史は100年以上もあり、とても長いのです。

アニメ私塾の室井さんと若手アニメーション作家のこむぎこ2000さんの対談も、コアな内容でめちゃくちゃおすすめです。

少し脱線しましたが、本書はアニメーターが執筆していることもあり、映像的な原理原則も学習できます。いわゆる構図や構成、目線誘導としての考え方です。構図の考え方は初心者には難しいところもありますが、ある程度のモチーフ描写に慣れてきたら是非チャレンジしたい分野です。

構図の考え方は感覚的に身につくこともありますが、自力で延々に解決できないこともあります。また手くせで描いていると同じような画面になりがちなので、引き出しを増やす意味でも一度は教科書的な学習ができると良いでしょう。

本書は他にも、手や服などの部位やモチーフの表現や樹木の描き方など手広く解説しています。人体描写が中心の本ですが、同様の考え方を使って様々な絵を描ける、まさにタイトル通り「なんでも描ける」を目標に制作されていることがわかります。

まさに初心者向けながら、一生使える技術書です。この本で覚えたことは様々な場面で役に立つことでしょう。今のYouTubeなどのSNSで情報発信をしている方も、考え方の基礎は本書だと思います。そして先にも述べたとおり、本書もまた、アニメスタジオのノウハウが生きています。

キャラ作画ノウハウの古典かつ、決定版を是非一度は読んでみてください。

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