基礎から実践まで全網羅 背景の描き方 by 高原さと

基本情報

著者：高原さと
出版：SBクリエイティブ
発売：‎ 2020/12/22
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当時20代の著者によるパワフルな実践書

様々な映像作品やコンセプトアートとして活躍した、高原さとさんによる基礎から実践までを学べる書籍です。フルカラーA4/250ページ超という本書をまとめてます。この仕様とボリュームで定価2,420円というのは破格です。

本書は商業的なヒット作となってます。内容も素晴らしいですが、これは背景のベテランクリエイターの熟練の技というよりも、勉強熱心な若手の作品という位置づけだと私は考えてます。高原さんは、本の執筆当時まだ20代で、出身も早稲田大学の建築学科です。授業で描き方をならったというわけではないことは、冒頭にも書かれています。それ故に独学でここまでの力量を身につけたパワフルさがあり、実際に本書もその情熱を読み取る事ができます。

この本は基礎をじっくりやるというよりも、実践で手を動かして学ぶという方針です。絵は技術なので、文字を読むだけでは習得は難しいです。本を見て、手を動かすことを繰り返しながら上手くなっていきます。それぞれのモチーフの描き方を例に出しながら、再現方法を学びます。

チュートリアル的に絵が仕上がる楽しさ

本書は具体的な作品で、モチーフの描き方を段階的に説明しています。デジタルでもアナログでも手順通りに描けば、近しいものを描き上げることができます。この過程に料理本を読むような楽しさがあるのです。最初はただのブラシのストロークが、質感や空間を帯びてくるような体験は特に初心者の方は驚きと感動があると思います。

扱うイラストも、屋外もあれば室内もあるし、機械、空、石、樹木、街など幅広いです。どれも定番のモチーフにはなるので、一冊終える頃には基本的な考え方が身についているといえるでしょう。ここからさらに専門的な別の書籍で深掘りするなり、応用が利きやすい状態

ただし、完全な初心者がすべて同じ体験をできるかというと難しいかもしれません。最低限の絵を描く体力と、着色が前提のため、デジタルツールや画材の扱い方は知る必要があるからです。本当にペンを持ったこともないような方であれば、1-2週間線を引く練習をしてからチャレンジするのが良いと思います。実践がメインの書籍だからこそ、バリバリ描かせますし、体感的に背景の概念を脳にインストールできます。

ブラシ、メイキング動画、PSDデータで補完できる

ありがたいのはブラシデータ、リアルタイムのメイキング動画、作例PSDを配付していている点です。書籍の解説だけでは実際にどういう風にアプローチしているかがわかりづらい部分もあるので、これは大変助かります。特にメイキング動画は大きいですね。動画は解説をしなくても、「ああこういう風に考えているのね」とわかるくらいに情報が沢山詰まっているので、解説+動画は学習ツールとしては最強です。ブラシも見た目が大きく変わるので、まさに至れり尽くせりだと思います。

動画は2〜3倍速くらいだと思いますが、実際にどんなことをやっているかを確認できます。3倍速の場合は制作時間10時間程度でしょうか。早いですね！解説を読み、動画を見て、PSDも確認していくのが上達のコツです。本当に出し惜しみしていないので、味わい尽くしましょう。　

PSDは細部まで確認できるのと、レイヤーの構造がわかるのが嬉しいです。個人的な話をすると、PSDデータを確認するのはドキドキ感がありますね。かなりプライベートな領域だと思うのと、より制作者の思考が伝わってくるからです。私も同様の経験がありますが、出す側も緊張感があるのではないでしょうか。

背景作画の入り口に

背景に関する書籍は沢山出てますが、情報量や網羅性という意味で、本書はかなりかゆいところに手が届く企画になっています。リリースされてから少し時間は経っていますが、初学者にとってはまだまだ一線級の内容です。（私を含め）背景に苦手意識がある方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。このボリュームの企画は今後もなかなか上がってこないと思います。