基本情報
著者:加々美高浩
出版:SBクリエイティブ
発売: 2019/11/9
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レベル:中級者向け
傾向:感覚・・〇・・理屈
<この本でわかること>
✓手の構造
✓手のポーズやそれに伴う形態の変化
✓年齢や性別による描き分け
✓演出、感情表現
これでもかってくらいの手手手!
手……めちゃ難しいですよね。この部位はプロでも難儀するモチーフです。この難しいものを変に単純化して誤魔化すのではなく、要素を整理しつつもしっかりと向き合っていくことが大切だと教えてくれるのが本書です。

本書はアニメーターの加々美高浩さんによる手の描き方についての本です。これまでもアニメ『遊☆戯☆王』などでキャラクターごとに異なる手を描写し、その表現力で多くの人を感動させてきた業界の第一人者です。手は顔と比べると描写の優先度を落としがちなパーツですが、近年ではサブパーツをしっかりと描けることが完成度の差別化に重要な役割をになっています。特に手は、様々な感情や演出を伝えられる要素もあり、構図や視線誘導においても重要な役割を担っています。
本書はそういった「手のみ」にクローズアップして、全ページにわたり、これでも勝手くらいの手の要素を詰め込んでます。ただし、まえがきで述べられているようにあくまでも優先しているのは「絵としての見栄え」です。解剖学や正確な構造を重視しているわけではないのです。もちろん、この記事を見ている多くの方はイラストへの活用を考えていると思うので、その役割としては十分でしょう。
難しいものを誤魔化さずに、複雑性にしっかりと向き合う
本書は本当に格好いい手を全力で描くためのものなので、最初から細かい話から入ります。「基本の手の描き方」と書いていますが、これは商業的な文脈において知っておくべき事なので、理解することは容易ではありません。

ただ、これはめちゃくちゃ知りたい情報なんですよ。特に中級者以上の絵描きにとって、手をそれなりに資料集めて観察して描いたのに、なんか硬くなってしまうということはよくあります。見たまま描いているのに!という違和感は絵として動かす時の解釈の仕方や、展開のパターンを覚える必要があります。こういったことを本書は全力でサポートしてくれるのです。
特に手のポーズは描き慣れていても、正確にとらえることは困難です。まず、関節が多く複雑な形をしています。指が曲がる方向に規則性はあるものの、画一的ではない。関節ごとの可動域も違います。ロボットではないので、筋肉や脂肪が部位によって異なる付き方をしています。これがポーズを付けるときにシワや盛り上がり、凹みなどを形成します。

演出における手
手は人体の中で特に変化が大きなパーツなので、様々な演出の中で機能します。我々が普段の生活で、手が使えなくなるととても困るように、絵の世界でも重要な役割をになっています。本書にはよく使われるポーズとしても作例が豊富に掲載されており、指を指す、道具を使う、腕を組む、頬杖をつく、服を着る、手を絡める、などといったシーンを考えることができます。

このパートは理屈で考えるというよりも、とにかく描いて頭にたたき込む部分だと私は思います。とはいえ、描くときのポイントやヒントは多数提案されています。例えば手と手が絡むような、複雑な動作の時は片手ずつ描いていくなどですね。レイヤーで色分けすると明確になり、すぐにでも制作に取り入れたいと思いました。こういう現場では当たり前とされているようなテクニックを学べるのも助かります。
クラウドファンディングで1億円突破
本の紹介ではないのですが、加々美さんが壽屋(KOTOBUKIYA)とコラボレーションしたハンドモデルのアクションフィギュアも発売されています。こちらのフィギュアは商品化に関わる費用をクラウドファンディングで募集しておりましたが、300万円の目標額をなんと1億4千万円超という凄まじい金額で突破しました。

写真を見てもそのクオリティがわかると思います。2024年9月現在は右手のみが販売されてますが、10月末から左手も販売されます(私も予約しました)。右手と組み合わせることで、ポーズの幅が無限に広げられることでしょう。グレーと白の2色というのも良いですね。先に述べたように、手を絡めたときに把握がしやすいです。
イラスト本としては異例、10万部超のベストセラー
本書は2019年の発売ですが、今では10万部超の人気作となっています。イラスト技法書は2万部で大ヒットの世界なので、10万部がいかにすごいかよくわかります。なぜここまで売れているかと類書が少ない時代が続いたからだと私は考えています。もちろん同系の方の中では圧倒的にレベルが高く、業界のお墨付きもあるということも重要ですね。
本書で学んだことをさらに深めるために『手+足の美術解剖学』を読んでみても良いと思います(こちらは上級者向けです)。様々な角度から手についての学習を深めていく、入り口のなる良書です。是非、一冊本棚に加えてあげてください。



