基本情報
著者:ア・メリカ
出版:翔泳社
発売:2019/3/1
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レベル:中級者向け
傾向:感覚・・〇・・理屈
<この本でわかること>
✓「主線なし」イラストの描き方
✓デフォルメの考え方、バリエーション
✓テクスチャ、立体感、色
デフォルメイラストの決定版
本書はデフォルメが強く、主線を描かないような可愛らしいイラストの解説書です。「主線なし」がタイトルになっていますが、制作の中で主線を足しても良いですし、あくまでもデフォルメを行う中での要素の一つでしかないので、応用の効く表現を提案してくれていると思います。
160ページほどの本ですが、どのページにも重要なことが書いてあり、「デフォルメ」、「テクスチャ」、「立体感」、「色」という4つの要素を軸に学んでいきます。構図などの基本的なテクニックについても解説してあり、この一冊でオールインワンのようにデフォルメ表現を網羅することができます。

著者のア・メリカさんは、任天堂作品、ベネッセなど教育関係と幅広く活躍するイラストレーターです。近年はNianticなど海外のIPからの受注も増えており、世界的に活躍しています。小さいお子様がいるご家庭では、知らず知らずの内にア・メリカさんのイラストを見ていることでしょう。凄まじい仕事量とクオリティを安定的に出している、希有なクリエイターです。本書はそんなア・メリカさんの技術の粋が詰まっているので、ものすごく貴重な内容です。
技術としては重要かつ高度
冒頭に「中級者向け」と書きましたが、表現としてはハイレベルです。手順通りにやれば似たようなイラストにはなると思いますが、ここに至るまでの感覚的な訓練は必要になります。この本の使い方は基本的な考え方を覚えつつ、とにかく実践を進めてみるのが良いでしょう。とにかく量を描くことが大切です。

メイキングがものすごく参考になります。これ見てもすぐに概念を理解できないかもしれませんが、まずは実践してみることが大切です。

この作例でいうと、背景があり、キャラクターを主体においてないので勉強になります。よくあるデフォルメの人物や動物ではなく、建物や情景を見せているので考え方として理解しやすいです。完成版はXでも見ることができるので、こういった作品を目指している方は必読です。
そして、写真のデフォルメはあらゆる応用ができます。商業仕事としてはかなり広い範囲で戦えるし、自主制作でも戦力になってくれます。
人物やキャラクター以外にも使える
先述の通り、本書は人物や動物などといったキャラクター以外のあらゆるモチーフに使えます。絵におけるセオリーをア・メリカさんの作風で学び、デフォルメへの理解を深めていくのです。本書ではカスタムブラシやイラストのPSDデータをダウンロードできます。まずは一度データを開いて、できるだけア・メリカさんの制作環境に合わせて、書籍の手順通り描いてみるとよいでしょう。型を身につけることで、引き出しが増えていきます。



ちなみにイラスト技法書を何冊か読んでいる方は、本書でも「構図」「シルエット」「明暗」などといったキーワードが何度も出てくることに気付きます。いずれも重要なキーワードではありますが「はいはい、知ってますよ」と流さずにア・メリカさん流の言葉の定義を意識してインプットしていくのが良いでしょう。作者によっては微妙に言葉の解釈のニュアンスが違ったりしますし、その差異がクリエイティブをユニークにしていることもあるのです。
ア・メリカさんのシルエットの取り方はは大ぶりながら、テクスチャや色のグラデーションで情報を補完していると私は考えています。データを見ると、こういった作者の息づかいも見えてくるようで、とても面白いですね。
デフォルメは仕事としては引く手あまた、だけどトップが強すぎる
最後に、本の紹介からは逸れますが市場から見たデフォルメ系イラストについて書いておきます。
商業イラストの仕事としては可愛い・デフォルメ系のイラストは非常に多くのニーズがあります。ただしこの分野での参戦者が少なく、供給が足りていないところもあります。今は少子化にもかかわらず、育児や教育市場が大きく伸びています。知育系商材も品質が高まっており、その背景には、企業はクリエイティブに積極的に投資を行っていることがあると考えてます。

自分として顕著にやべーと思っているのはMacDonaldのハッピーセットです。500円程度で玩具が付き、しかもやたら完成度が高い。それだけならまだしも、IPものが多いのです。つまり版元でお金を払っているということですね。具体的なロイヤリティがどうなっているかはわかりませんが、プロモーション目的だとしても監修やら色々と利害関係が発生するのです。ハッピーセットの商流を作るためには、ビジネスとクリエイティブ、製造、宣伝のすべてが完璧でなければいけません。企業努力といえば簡単ですが、私の想像をはるかに超えた労力がかかっていることは間違いないでしょう。
そういった環境なので、子供向けにも訴求できるデフォルメ系や可愛いイラストはニーズが増えているのです。
このような話をすると「え、自分もデフォルメ描いているのに全然仕事が来ないんだけど!?」という人はいるでしょう。厳しい見方をすれば、ニーズはあれど、やはり実力は重要なのです。そして、この業界のトップクリエイターがやたら強いことも現実としてあります。この10年に出てきた若手クリエイターでも、本記事で紹介しているア・メリカさんや、サタケシュンスケさん、カナヘイさん、ヒョーゴノスケさんなどが活躍されてます。さらに超一線級だと『ちいかわ』のナガノさん、『いらすとや』のみふねたかしさん、『Suicaのペンギン』で知られる坂崎千春さんなど、とんでもない人らがわんさかいるのです。ここで名前を上げている通り、デフォルメ系イラストで当てると公共事業クラスなのです。
この人達は基本的なデッサン力が恐ろしく高い上に、デザインや企画力も凄まじいものを持っています。デフォルメ系イラストは可愛い見た目に反して超技術です。坂崎千春さんも東京藝大出身ですし、絵の上手さはピカイチです。感覚的な描写力と論理的な設計が両立しています。そら強いですね。怖いですね。
私はデフォルメを研究する場合は、思考力が何よりも大切だと思っています。描くことが前提ではありますが、既存のモチーフをしっかりと観察し、要素を分解した上で、デザインに落とし込んでいくことが必要です。その過程を学習する上で、本書『“主線なし”イラストの描き方』は大きな助けになります。なんとなくで自分の可愛いを実現するのではなく、時には主観や感覚に抗い、自分の絵を調整していくことが成長にとっては必要なことだと感じます。



