基本情報
著者:加藤 公太
出版:玄光社
発売: 2020/10/30
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レベル:中級者向け
感覚:感覚・・・・〇理屈
<この本でわかること>
✓美術解剖学の基本
✓筋肉や骨格の名前と役割
✓人体の構造
美術解剖学はどこかのタイミング絶対に覚えるべき!
この記事を読んでいる方は美術解剖学を勉強したことがあるでしょうか?骨格や筋肉の名前や形を覚えることが絵の勉強になる、ということは直感的にはわかりづらいかもしれません。私は、あるモチーフを上手くなるということは、構造・造形を理解していくことだと考えてます。人体における構造こそが骨格や筋肉なのです。人間にはいくつかの大きな骨格があります。頭蓋骨・肋骨・骨盤・そして腕・足です。これらの部位の大きさや場所を覚えておくだけで、人体に対する見方が大きく変わるのです。
この構造を覚えることで、人体を立体的にとらえられることはもちろん、分解的に考えることができるようになります。骨の出っ張りや筋肉の隆起についても説明ができるようになるのです。この説明ができる、という感覚はとても重要で、右脳(感覚)だけでない左脳(理屈)的なアプローチを可能にするのです。人間は感覚と理屈を相互に補完しあって生きています。芸術分野は感覚の方が重要だと思われる場面もありますが、実際にはどちらも必要です。左脳の訓練をすることはイラストの見栄えを飛躍的に向上させてくれます。

著者の加藤公太さんは東京藝術大学を卒業して、順天堂大学で解剖学を学ぶという異色な経歴を持っています。美術解剖学は近年でメジャーになってきた分野ですが、そもそも専門的な知識を持つ事自体は難しいのです。加藤さんは日本人を代表する美術解剖学者と呼んでも差し支えないでしょう。本書は加藤公太さんの初単行本であり、比較的安価で美術解剖学を網羅的に学ぶことができます(他の美術解剖学の本は高いのです……!)。
美術解剖学を勉強するタイミングは人それぞれです。何にでもいえますが、やりたいときにやれば良いと思います。しかしこの分野は独特です。理由はイラストを描いている感がすごく弱いからです……!最初は模写をしたり、文字を読んだりが中心です。実際に私も大学で「美術解剖学がきつかったです……」という声はよく聞きました。
面白いのは、それと真逆のリアクションの人もいることです。「美術解剖学最高です!加藤公太先生の本もすべて買いました!!」そんな学生もいるのです(※私の大学で美術解剖学の担当教員が加藤公太さんです)。それにハマる人はハマあります。ものごとを構造的に理解し、それぞれの役割や機能を覚えていくことが好きな人にとっては美術解剖学は知的好奇心をくすぐられるジャンルでしょう。

オススメは骨格→筋肉
美術解剖学では筋肉が注目されがちです。特に男性は筋肉が大きくなり安いので、大胸筋や上腕二頭筋(力こぶ)を格好良く描きたいというニーズは多いと思います。実際に学習を進めていくにあたっては骨格から練習することを私はオススメします。
理由は骨格の方が覚えるのが簡単で、構造を把握しやすいからです。筋肉はポーズによって形が変化しますが、骨格は硬いので一定の形状を維持します。人が骨になると、太っているか、痩せているか、マッチョかどうかはわからないですよね。専門家でなければ男性か女性かも見分けが付きません。つまり、骨格は筋肉が付いている状態に比べて情報が少ないのです。とはいえ、立体感やポーズをとらえるのに骨格は十分に役に立ちます。いわゆる素体を描くときにも、骨格から覚えていった方が早いです。もちろん筋肉は骨格の上にあるので、筋肉を覚え上でも役に立ちます。基本的に構造は表面ではなく、内側からとらえていった方が理解しやすいと私は考えてます。本書では以下のような図で骨格の動きを表現しています。

筋肉は収縮と伸張からなる!
解剖学を全く知らないうちは、筋肉はなんとなく盛り上がったものという単純なとらえかたで見てしまいがちです。筋肉は身体を動かすための繊維なのです。つまり、お互いが引っ張り合って歩いたり、物を持ったりとした動作が可能になります。そしてこの引っ張るという動きは一方にしか働きません。上腕二頭筋は腕を曲げることはできても、それ単体で伸ばすことはできないのです。

ボディビルディングをしていると「表の筋肉」「裏の筋肉」といった言葉が出てきます。これは筋肉が対になっていることを意味します。上腕二頭筋に対して上腕三頭筋、大胸筋に対して広背筋といったものですね(実際の筋肉は入り組んでおり、もっと複雑です)。本書では上記の図のように、解剖学的に筋肉の機能を理解できます。
人体の解像度を上げよう
美術解剖学では骨格や筋肉の名前を覚えていくことも重要です。名前を覚えると機能や形について理解しやすくなりますし、それぞれの筋肉の繋がりを感覚的にも把握できるようになります。本書はわかりやすく筋肉や骨格に着色してあるので、部位の構造を覚える助けとなります。
最初から複雑な細かい筋肉は覚えなくて良いと思いますが、興味のある、格好いいと思う筋肉がどういう構造になっているのか調べて見ると楽しいでしょう。みんな大好き大胸筋は、実は5つのパーツに分かれており、脇や腕に繋がっていることがわかります。こういった筋肉の流れを理解すると、腕を上げたときのイラストを格好良く描くことができるのです。

先人の知識が脈々と受け継がれたジャンル
美術解剖学というジャンルは、それこそダ・ヴィンチの時代から存在しました。類書も多く出ていましたが、イラストの分野に浸透してきたのは『スカルプターのための美術解剖学 -Anatomy For Sculptors』からだと思われます。こちらも名著であり、大ヒット作です。医療やトレーニングといった他分野との接続もあり、とても豊富な資料があります。

本ジャンルに少しでも興味を持ったら、是非他にも関連書籍を買ったり、3Dアプリや人体模型も手に取ってみると良いでしょう。立体物は本で構造を覚えて、実際に立体物を触ると覚えが良いです。自分の身体を観察するのもヨシです。
本書を美術解剖学の入り口として、是非この世界に足を踏み入れてみてください。人体に対するとらえ方が大きく変わってくるはずです。なによりも美術解剖学は面白いです。自分の身体を学ぶのに近い発見もあります。



