うえだヒロマサが教える! 最速で上手くなる人物の描き方 by うえだヒロマサ

人体

基本情報

著者:うえだヒロマサ
出版:KADOKAWA
発売:‎ 2024/8/28
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レベル:初心者向け
傾向:感覚・・・〇・理屈

<この本でわかること>
✓基礎的な顔や身体の描き方
✓素体の考え方
✓パースによる人体の見え方

現場での教育体験から生み出されたノウハウ

イラスト書籍は数あれど、人体ジャンルで定期的に刊行している作家は少ないです。うえだヒロマサさんはこれまでも漫画形式のノウハウ本を3冊出しており、彼は本職も専門学校や大学の先生をやっています。書籍では一方通行ですが、直接学生とやりとりしながら教育をするという体験を数多く持っているのです。本書は280ページにわたる大ボリュームで、初期の学習者がつまづきそうなポイントを解説しています。まさに現場で培った教育ノウハウの集大成が詰まった一冊といえるでしょう。

引用:うえだヒロマサが教える! 最速で上手くなる人物の描き方(Amazon)

この本の特徴は単なる個人体験の閉じたスキルの共有ではなく、そういった多くの学生の学習スタイルや傾向を加味しているのがユニークな点といえます。そういった背景もあり、本の冒頭では学習者のタイプを知るための性格診断からスタートします。そう、描き方からスタートするわけではないのです!

引用:うえだヒロマサが教える! 最速で上手くなる人物の描き方(Amazon)

性格タイプを理解した後は、目標やマインドの設定に話をうつします。描き方に入る前に前段を20ページほど丁寧にとっています。なぜこのようなアプローチをするかというと、やはりご本人の教育経験によるものでしょう。基礎となるキャラクターを把握して学習する方が、本書でいう「最速で上手くなる」を達成できるという意図があります。

面白かったのが、ペンの握り方や線の引き方についての解説がある点ですね。後者についての解説はよく目にしますが、前者は現場での教育経験がある著者ならではの視点だと思います。私もイラストの教育をやっていますが、通信なのでこのあたりのニュアンスを拾いづらいですが、気付かされました。色々と教えてもどうにも意図通りに学生が再現できない場合、なにか根本的な行き違いがあることがあります。そういった”まずは型にはめる”という教育において大切なことを丁寧に進めています。

引用:うえだヒロマサが教える! 最速で上手くなる人物の描き方(Amazon)

ステップバイステップで上達する

そういった理由で本書はガチの初心者本です。ペンの握り方から指導する書籍はそうそうないでしょう。でもイラスト以外の分野であれば普通のことです。陸上では靴紐の結び方を学ぶし、音楽では楽器のメンテナンスや姿勢矯正は必修ですよね。

このように本書では「まずこれをやって」「次にあれをやって」といった、うえだヒロマサ流の手法で順序だてて学習を進めていきます。書籍によっては「好きなところから読んでOK」というものもありますが、本書についてはページの順序を守るべきだと思います。

引用:うえだヒロマサが教える! 最速で上手くなる人物の描き方(Amazon)

つまり、上達のプロセスをパターンにしてフォーマット化しているわけです。イラスト学習は変数の多い世界ではありますが、それでも効率の良い進め方はあります。まずは手順通りに理解することで、用語を知り、型を身につけるので、後半の説明も理解できるようになります。算数でも、足し算や引き算を身につけてから、かけ算→割り算→分数と進んでいきますよね。

本書場合はマインド→線の引き方→顔の比率→顔の角度→身体……といった様に学習を進めていきます。最終的に人体をパースライン(立体)で意識したキャラクターイラストを描く事がゴールです。

引用:うえだヒロマサが教える! 最速で上手くなる人物の描き方(Amazon)
引用:うえだヒロマサが教える! 最速で上手くなる人物の描き方(Amazon)

意外と少ない初心者本

イラスト学習書籍は毎月多数出版されており、いわゆるレッドオーシャンの中にあります。以前よりも本が売れなくなってきており、かつ原価が高騰している昨今では出版社は企画を考えることに凄まじく頭を使っています。こういった市場背景もあり、近年の書籍のレベルは内容や装丁共に高度なものが増えているように思います。その中でも人体の描き方本は一番大きなジャンルです。恐らく最も多くの本が刊行されているでしょう。

しかし、「初心者向けに、」「手順に沿った」というアプローチは意外と少ないのです。なぜかというと、作り手の手間が膨大にかかるのと、普段から学習者に触れていないと細かなニーズがわからないからです。「初心者向けです」という触れ込みの本でも、実際に読むと経験者でも難しいというものはよくあります。有名なのはA.ルーミスの『やさしい人物画』です。「全然優しくない!」と20年ほど前から盛り上がっており、もはやミームになってます。

そういった意味で本書は真の初心者にもお勧めできると私は考えてます。手順もそうですが、エンジンのかけ方がなだらかです。0→1→2→3→4……と進んでいくイメージですね。最初は初心者向けの内容が0→3→10→24……の様にドライブしていく本もあります(これはこれでメリットもある)。絵に限らず、新しい分野の勉強をするときは、まずは小学生や中学生の教科書を読むこと、が良いとされています。これは別に勉強初心者の方に限らず、東大の博士課程を出ている人なんかでもそうです。前提となる知識を得てから応用を深めていくのです。

書籍は相性です。合うか合わないかは読んで実践しなければわかりません。そういった意味で本書は読者の手触りを意識しながら書かれており、一緒に寄り添ってくれるような内容になっています。これから絵を描きはじめるという方、人体の苦手意識を改善したい方、ぜひお手にとってみてください。