基本情報
著者:TAO
出版:翔泳社
発売: 2023/3/13
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レベル:中級者向け
傾向:感覚・・〇・・理屈
<この本でわかること>
✓密度の高い絵の描き方
✓モチーフに差を付ける方法
✓資料からデフォルメしていく、アイデアを考え方
✓量に向き合う姿勢
密度の高い絵はみんなのロマン!
密度の高い絵……いいよね。沢山のモチーフがみっちり描かれているイラストは、誰もがどこかで一度は通る道のように思います(だよね?)。私の場合は小学生時代に描いていた迷路から謎の模様まで、人間を描く前にペンを動かしていました。しかし実際に密度の高い絵を建物や人物を入れて描写していくのはとても大変です。特にプロのイラストレーターは疎密関係などの一点豪華主義をする方がコストパフォーマンスが良いので、背景を省略しがちです。また、たまに密度の高い絵を描いてもそれを作風にできる人はかなり少ないです。単純に時間もかかるし、レイアウトも大変になるからです。
こういった作品に真っ向から挑み、たくさん描いているのがTAOさんです。1枚や2枚ではなく「基本的に密度が高い」なのです!

このスタイルはマネしづらく、やはり業界内でも一線を画す存在になっています。最近だと『建築知識(エクスナレッジ)』のシリーズ表紙を長期で手がけています。こういったイラストはリアルな世界と接続でき、様々なメディアと相性が良いのです。背景やモチーフを描けるということは、世界観を表現することであり、特に表紙や広告といったキービジュアルの仕事に抜擢されやすいです。
とはいえ、沢山描くのは大変ですよね。TAOさんはいつも数々のモチーフから逃げません。この処理能力は凄まじく、単に手が早い事以上に体力や集中力も必要になります。そしてもちろん、構成力やデフォルメ、アイデアの組み立てなどのノウハウも存在します。前置きが長くなりました、本書はそんなTAOさんの持つスキルを分解しながら解説していく本になります。
どうやって大量のモチーフを混乱せずに配置できるのか
TAOさんの作品はアイテムが多く、描いていて混乱しそうです。下描き段階で設計したものが、線画で収拾つかなくなり、挫折することもあり得そうです。でもそうならない。本書で提案しているコツはいくつもありますが、「大きい物から描く」というやり方です。細かい所から描くと時間のわりに画面が埋まらないので、まずは画面を占める割合の高いものから描いてイメージを決めていくという方法です。

また、私の解釈としては「線の引き方について法則(レギュレーション)を決める」ことが重要だと考えてます。TAOさんの絵は直線の使い方がとても上手いです。それらの多くは法則に沿っています。例えば上記のイラストだと室外機や窓はすべて90度の直方体をベースに描かれています。本書を読むとわかりますが、コピー&ペーストも用いて効率的に描いています。法則を決めておくことで、アイテムの量産がしやすくなり、画面にも統一感を出せるのです。ドット絵が人気なのも同じです。冒頭に私が書いた迷路や模様の例も類似する考え方だと思ってます。それをめちゃくちゃ高度にしたのがTAOさんです。
規則性に変化を加える曲線モチーフ
しかし、単に規則性のある線描では画面が退屈になってしまいます。そこに変則的な曲線モチーフを入れて変化を付けていきます。TAOさんはこのエッセンスを取り入れるのは本当に上手い。これは線描だけではなく、色もそうです。規則的にベタ塗り(アニメ塗り)配色してリズムを着け、場所によって微妙なグラデーションや明暗を入れるなど、絵の中の秩序を混沌を使い分けてます。こういった設計は序盤からある程度イメージしているものの、進めていく中でのアドリブも大きいのではと思います。

アイテムを適切に選ぶ
密度が高い絵を描く時に迷うのは「何を配置すれば良いか、ネタが尽きる」ことだと私は考えてます。こういった絵は自分も描いたことがありますが、結構悩ましく、とりあえず隙間を適当なモチーフで埋めるということになりがちです。学生時代に趣味で描いていた頃は、とりあえずシュールレアリズムになりがちでした。絵として描いていて楽しいですが、テクニックとしては引き出しは増やしていきたい所です。

要素を適当に増やすとシュールレアリズムになりがち
背景の密度を高めていく上では、モチーフを知っていくことが大切になります。本書では実際のイラストを見ながら、「使える」アイテムを解説しています。横断歩道や電信柱は誰もが見たことがある日本の風景ですが、絵の中でどのように作用するかを知ることが大切です。例えば電線は画面を分割したり、視線を誘導するなどといった便利なモチーフで、絵描きからも好んで採用されます。

また、モチーフはそのままリアルに描写するのではなく、あくまでもイラストに馴染むようなデフォルメを加えることも本書で提案しています。これは線をシンプルにすることや、色を映えさせる(彩度を上げる)ことも含みますが、要素を落としたり、プロポーションを変えることなどの全体的なデフォルメも指しています。
パースは”絶対”ではない
本書には簡単にパース(遠近法)の解説が掲載されています。これはあくまでもイラストを良くするためのテクニックなので、原理や深く理解するたのめものではありません。先述の通りの法則性を作ったり、リズムや演出のために使っているのだと私は解釈しています。TAOさんの絵は正確にパースを意識しているものもあれば、あえて平面っぽさを残した立体的なデザイン(≒キャビネット図)を採用しているものもあります。

もちろん基本となるアイレベルや画角の概念はとても重要です。専門的に学習するならカメラや撮影の本を一冊読むのが良いでしょう。ちなみにガチで勉強すると底なしなジャンルです。
憧れ実現への一冊
本書は他にも、アイデアの出し方、モチーフのサイズ、変化の付け方、オリジナリティの考え方など、多彩なノウハウが詰まっています。どんな作画スタイルでも、絵の密度を上げることはテクニックとして重要です。特に商業の現場においては重要な差別化になりうるからです。
TAOさんのテクニックが惜しげも無く収録された一冊、是非お手に取ってみてください!



