基本情報
著者:宮本祐輔
出版:玄光社
発売: 2024/9/25
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レベル:中級者向け
傾向:感覚・・・・〇理屈
<この本でわかること>
✓イラスト展覧会の作り方
✓展示物の製作ノウハウ
✓セルフプロデュース
まさに永久保存版、展示に興味があるならマスト
すごい本が出ました。宮本祐輔さんの本書は、イラストを中心として出力や支持体の情報について最新のトレンドがまとまっています。イラストレーターの個展ブームの昨今、特に重要になってくる書籍でしょう。豪華作家の展示写真と共に掲載され、印刷を検討している人にとってもの凄く参考になります。作品を制作しているとどこかのタイミングで、「個展をやりたい」と思うこともあると思います。令和のイラストレーター個展は様々で、イラストだけではなく、フィギュアの展示や映像、インスタレーションなど多様化しています。この本は個展だけでなく、学校・美大などでのちょっとした展示などでも役に立つことでしょう。

少し前のイラストの展示作品は、パネル出力やキャンバスなどの額装展示がメインでしたが、今やバリエーションは多岐にわたっています。上記のページでは米山舞さんのLED照明が仕込まれているイラスト展示作品を紹介していますが、印刷技術の発展と共に尖った企画も進められるのです。このような最新の印刷トレンドを俯瞰的に確認できるという意味でも、本書はマニアックながら、とても貴重な存在となってます。
表紙イラストはろるあさん。同じく宮本さんの番組企画『COJIRASE LUNCH BOX』にも出演しています。過去にも多くのイラストレーターが出演してます。
展示の流れを理解できる
本書を推す理由は、私自身がイラストの展示をいくつかプロデュースしたことがあるからです。pixiv WAEN GALLERYでは米山舞個展、LAM個展、焦茶個展、Anmi個展、望月けい個展などを担当しました。暗中模索で仕事をしていたので、当時の自分にこの本を送ってあげたいです!

この本はイラストレーター以外でも、個展を検討しているプロデューサーやディレクターの方も読むべきです。冒頭には企画の流れや商流についての説明もあります。展示はお金も人も使うので、規模感などを事前によく検討しておく必要があるでしょう。イラスト展示は小さいもので10平米、大きいもので200平米くらいになります。これが有名漫画家(荒木飛呂彦、CLAMP、尾田栄一郎 など)となると、1,000〜2,000平米ほどです。こう考えると本書は小〜中規模展示のプロセスを紹介しています。
展示の広さによって印刷の仕様は変わります。1,000平米を超えると高級な印刷はやりにくくなるので、規格を統一して額装やパネルでまとめるのが一般的です。額装の方が金額は高く、パネルは安いです。先日、拝見した『CLAMP展(2024年7月3日〜9月23日)』はすべて額装だったので、さすがに予算をかけているという感想を持ちました。
本書の冒頭ではコンセプトを考える意義、展示企画の流れ、会場レイアウトなどの紹介があります。あくまでも印刷物の紹介がメインの本になるので、この辺はさらっと流していますが、展示企画の概要を理解する上ではとても参考になると思います。
図鑑のように印刷を理解できる
イラストレーターの展示は上記の通り、小〜中規模です。つまり場所が小さいので、来場者の満足度を上げるために印刷にコストをかけるケースが増えています。例えば本書で紹介されている印刷はアクリル、木、レーザー彫刻など「なにそれ」と思ってしまうものが多いでしょう。そう、イマドキの印刷は紙だけじゃないのですね。



この辺の印刷の凄さもなかなか現物を見ないとわからないとは思いますが、「こういうのもあるんだ」と理解するだけでも大きな意義がありますし、下調べの参考にもなります。本書の最後に各印刷会社への連絡先がある(神神神)ので、気になる方はメールを問い合わせをしてみるのも良いでしょう。
イラスト展示でのビジネス的な観点
後半では30ページにわたり、インタビューが収録されてます。pixiv WAEN GALLERYと作家鼎談の2本立てです。鼎談では著者の宮本さん、イラストレーターの米山舞さん、PALOW.さんの三者が過去の展示や作品、クリエイティブについた話してます。私自身が米山さんの初個展『SHE』を担当しましたが、他の展示にも言及してくれており、自分ごととしても恐縮やらで参考になりました。

直近の技術トレンドや作家ごとの特性に触れつつ、ビジネスの話にも展開しています。展示はとにかくお金がかかるので、印刷仕様が予算に跳ね返ってくるのです。彼らが所属するSSS by applibotでは、海外の展示も行っているので地域ごとの原価の違いや、売上をどのように考えていくかについて述べられてます。個展の一回目は興味ではじめたものの売上が経たずに、二度目がなかなか開催できないというケースを耳にします。大規模な企画は作家ひとりの力では開催できず、様々な人の協力が必要になるのです。それにはビジネス的な成否も重要です。
展示をもっと身近に!
この記事を執筆している2024年は、沢山のイラストレーター個展がありました。私もできる限り会場に行きましたが、スケジュールの都合で見逃してしまっている展示もいくつもあります。恐らく過去最大であり、今後もさらに増えると思われます。今は個展と言って良いでしょう。ギャラリー自体もどんどん増えてますね。私は元々アート界隈の人間なので、イラストをWEB以外のメディアで拝見できるのはとても嬉しいです。コロナ禍でリモートワークが増えましたが、オフラインの空間でしか生まれないコミュニケーションもあります。
この流れを作ったのが、本書にも掲載されているpixiv WAEN GALLERY、米山舞さんやSSS by applibotだと認識しています。そしてもちろん著者の宮本さんです。それでもイラストレーター展示の知見がある人自体が業界ではまだまだ少なく、宮本さんはその中でもトップクラスに場数を踏んでいます。
今後はイラストレーターの個展やプロモーションをサポートできる人がより重要になってくると思います。SNSでの個人活動にはどこかで限界が訪れるので、表現の発信や作家としての成長には新しい引き出しが必要になります。そういった視点を得る意味でも本書から展示の知識を仕入れていくのは大事なことだと思います。



