世界観の作り方 アイデア出しからデザインまで わかりやすいコンセプトアート入門

背景

基本情報

著者:有里
出版:翔泳社
発売:2021/05/24
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レベル:中級者〜上級者向け
傾向:感覚・・〇・・理屈

<この本でわかること>
✓コンセプトアートの考え方
✓リサーチの方法、アイデアの出し方
✓デザインの手法

コンセプトアートは単なる背景画ではない

引用:世界観の作り方 アイデア出しからデザインまで わかりやすいコンセプトアート入門(Amazon)

元レベルファイルのコンセプトアーティスト(デザイナー)、有里さんによるコンセプトアートの入門書です。コンセプトアートとは世界観の構築となるイメージをスタッフ間で共有するための絵で、映画、アニメやゲームなどの仕事では必要不可欠なものです。「入門書」と書いてますが、イラストの入門書ではなく、あくまでもコンセプトアートの入門書なのでゴリゴリのプロ仕様です。だからこそ貴重もあります。

基本的な背景の描き方を詳しく解説しているわけではありません。メイキングもありますが細かい部分は省略してます。その分、コンセプトアートについて詳細に述べています。

ページをめくっていくと、全体的な絵のハイレベルさに感動します。コンセプトアートは、「見る人にどう受け取ってもらうかが重要」だと本書では述べられています。企画のコンセプトが適切に表現され、他のスタッフに具体的なイメージを伝えることが大切だからです。

引用:世界観の作り方 アイデア出しからデザインまで わかりやすいコンセプトアート入門(Amazon)

つまり、綺麗でいい感じの背景を描くことが目的ではないのです。なぜこのデザインにしたのかの描き手なりの理由が必要であり、アウトプットはリサーチに裏打ちされなければなりません。本書では下調べの重要性を説いており、プロジェクト全体の仕組みについても解説しています。この掘り下げが一般的な作画技法書と一線を画す点だと私は考えてます。

もちろんコンセプトアートの考え方は背景を描くときに大きく活かされます。どんなイラストであっても、世界観についての綿密な設計ができていれば他の人と大きな差がつくでしょう。なんとなくの背景ではなく、意味のあるデザインを描くことができるようになります。それは絵を描く事をより楽しくしてくれるはずです。

テクニックではなく考え方を徹底解説

本書の面白い点は情報収集やそこからどういったアウトプットに繋げるかを徹底的に解説してくれているところです。プロになればなるほど、事前リサーチの重要さを把握しています。資料が何もない状態で、ガチな絵を描くのは背景だろうが人体だろうがあり得ません。

引用:世界観の作り方 アイデア出しからデザインまで わかりやすいコンセプトアート入門(Amazon)

特にコンセプトアートは「説明」や「説得」が必要になる場面もあり、モチーフの選定やデザインはよりシビアになってきます。自分の頭の中だけで考えるのではく、書籍やインターネットも使って情報を収集します。さらには実際に建物を訪れて取材したり、写真を撮り、スケッチをしてアイデアの解像度を上げていくのです。

ネットでの検索は便利で早いですが、やはり現地取材でしか得られない情報は多いのです。良い仕事をするために差が付く部分でもあります。本書を読んでいると、プロはここまでするんだなあという感嘆とリスペクトの思いを持つ事にもなるでしょう。

引用:世界観の作り方 アイデア出しからデザインまで わかりやすいコンセプトアート入門(Amazon)

私達が普段なにげなく遊んでいるゲームは、凄まじい情報によって設計されているのだということがわかります。すべてのデザインには制作者の意匠が込められており、なんらかの機能や意図を持っているのです。

ゲーム会社に興味があるなら絶対読むべき

引用:世界観の作り方 アイデア出しからデザインまで わかりやすいコンセプトアート入門(Amazon)

特にコンシューマ系のゲーム会社への就職を考えている方は、絶対に読んだ方が良いです。今すぐに買ってください(圧)。というのも、仕事についての解説が詳細なので就職の攻略本という側面を持っています。仕事を得るためには、当然画力は必要ですが、業界研究も同じくらい重要になります。漠然と背景が描きたいという人よりも、しっかりとゲームの開発プロセスを理解して、どの工程に自分の技術はどう役に立つかをしっかりと説明し、それに向けてスキルを磨いている人の方が採用率が高いのは当たり前のことです。

多くの就活生が背景といってもアニメとゲームのコンセプトアートの違いがわかりません。本を2〜3冊読めばわかるのに、勿体ないです!実践できるかはともかく、概要を理解するのは1時間もかかりません。その1時間で下手すると人生が変わるのです。私が大学の面談で「背景で仕事をしたいけど、業界のことなにもわからない」という学生と話すと必ず紹介するのが本書です。ちなみにもう1冊は増山修さんの「アニメスタジオで教わる背景画の大原則」です。考え方からテクニックまで全然違うので、しっかりと両者の差異を把握した上で自身の課題を設定すべきでしょう。

ゲームのコンセプトアートはこの一冊で基本的な考え方が身につきます。