大半のプロイラストレーターはSNSをやっていない?フォロワー数よりも重要なものとは

コラム

フォロワー数よりも重要なものは技術と人脈

先にタイトルの結論を書いておくと、商業仕事の受注において重要なのは絵の技術、人脈、営業です。フォロワー数も知名度も直接的に仕事に繋がるものではありません。

本当にプロのイラストレーターを目指すなら、フォロワー数やインプレッションに惑わされずに目標を達成するために、考えて手を動かしを続けることが大切になります。以下に詳しくその辺の理由をお話していきます。

「フォロワーの増やし方」「どうすればいいねやリポストがもらえるか」などのワードで訴求する記事やYouTuberはありますが、仕事を取るにはそれは重要ではないのです。影響力を持ちたいならフォロワー数は一つの目安になりますが、目的に応じたアプローチを考えていきましょう。私自身もフォロワーが多いタイプではないのですが、ゲーム案件や企業ロゴ、広告のアートワークなどと担当しています。

イラストを担当したTOYOTA PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLSより

SNSを動かさなくてもプロになれる

多くのプロのイラストレーター・クリエイターはSNSをやっていません。この「やっていない」というのは、アクティブに投稿したり、SNSを中心とした営業活動をやっていないという意味です。アカウント自体は持っていても、フォロワー数が少なかったり、特に作品に関係のない投稿をしているという感じです。もちろんそもそもアカウントを持っていない人も沢山います。

ここまで読んで「いやいや、みんなやってるでしょ!」と突っ込んだ方も多いと思います。なぜ私がここまで断言できるかというと、以前に所属していたゲーム会社のイラストレーターがまさにSNSに興味がない人達が多かったからです。その現場ではイラストレーターが100名以上いましたが、SNSでは普通に家族の話や趣味のことなど、ごくごく普通な投稿でした。なんならXというよりも、FacebookやInstagramが中心で、そもそもネットで有名なイラストレーターの情報も興味がないという方も珍しくなかったです。これは私の現場だけではなく、知り合いから聞いた他の職場でも似たような感じでした。

念のために言っておくと、彼らの絵はとんでもなく上手いのです。そのゲームタイトルは当時は毎月10億円以上の売上を出していましたが、その理由として大きいのはイラストの魅力です。いわゆるガチャと連動した課金システムでしたが、設計と同じくらい絵が良くなければユーザーは買わないのです。カネのある業界には優秀なクリエイターが集まります。当時の部署はハイレベルで、転職後も活躍している人が多いです。任天堂の案件を請けたり、LINEスタンプで毎月100万円以上稼いだり、そういう人達がいました。

それでも彼らは特にSNSを積極的にやっているわけではありませんでした。

プロ作家は短期的な人気よりも作品のクオリティを追求する

多くの商業イラストレーター志望者はSNSのフォロワー数やリアクションを気にしています。それ自体は自然なことですし、私も躍起になっていた時期がありました。しかし実際にイラストの仕事をしてみて、SNSが最重要ではないことに気付いたのです。

先ほど挙げた例はゲーム業界の話でしたが、例えばアニメーターも同じだと思います。技術力があり、業界では重宝される方でもSNSをほとんどやっていないか、フォロワー数が少ないという方は沢山います。気になる方はアニメのエンドロールから名前を検索してみてください。今はアニメーターでも有名な方は増えてますが、それはごく一部の話です。多くの商業クリエイターの活動モチベーションは認知度や人気ではなく、プロジェクトに貢献できる技術であり、良い作品でお客さんに喜んでもらうことです

当たり前のことですが、人気を得ることと良い作品を作ることでは、そこに傾けるモチベーションは異なります。もちろん良い作品を追求した結果、人気が出ることもあります。しかし大多数のSNS的な評価を得ることと、ある場面で高い価値を発揮することは異なるのです。

フォロワー数は営業力とも少し違う

とはいえ、SNSフォロワー数が多ければ仕事をとりやすくなると思っている人もいるかもしれません。これもやや誤った認識だと私は考えています。実際に私がX(当時Twitter)のフォロワー数は5,000名ほどですが、様々な仕事をとっています。一番フリーランスの仕事をやっていた時期で3,000名ほどだったかと思います。

「いやいや3千人は十分多いでしょ!」と思う方もいるかもしれませんが、仮に私のアカウントのフォロワーが100名でも同じ仕事をとってこれたと思ってます。なぜならフォロワー数を気にするプロジェクト自体がそこまで多くないからです。フォロワー数よりも「制作要件に応えられるか」「適切にコミュニケーションできるか」の方が100倍重要です。SNSのイラストレーターでフォロワーが10万人いても、仕事が来ているかどうかは別です。

例えばあなたはSuicaのペンギンのイラストレーターが誰かご存知でしょうか?正解は坂崎千春さんですが、Xのフォロワー数だけでみると約1万人、Instagramで2.6万人です(2024年10月時点)。あれだけのメジャー作品やヒットを数多く生んでいるクリエイターでこれくらいなのです。しかしこの数字で坂崎千春さんの実力や信用が揺らぐことはないのです。

本当に仕事が欲しい場合、気にすることはフォロワー数ではありません。自分がやりたい仕事を研究することと、それに応える技術を磨くことです。仕事に繋がらないようなSNSでのリアクションを逐一気にしているのは遠回りです。何が必要で、何が必要でないかを整理していくのが良いでしょう。

プラットフォームの性質を理解する

SNSはそのプラットフォームの性質上、フォロワー数が多く入る人が目立ちがちです。当たり前ですが、SNSで見る人は全員SNSをやっているので、それがすべてだと錯覚しがちです。そして自身のリアクションも気にしてしまう、というループが発生します。インフルエンサーと自分の対比に落ち込んで、悔しくて執着するようになると、それは本来目指している表現力を上げていくことや、仕事を得ることからずれていってしまいます。

プラットフォームはユーザーを中毒にさせ、サービスに依存するように作られていると言っても過言ではありません。それはプラットフォームの収益モデルが広告であり、有料ユーザーからの課金で成り立っているからです。これは私が先に述べたようなガチャの課金ゲームを担当していたから特に思うことです。娯楽や情報収集の手段としてSNSを活用することは良いですが、そこでの評価がすべてだと思ったり、振る舞いを気にしすぎたりすることは本末転倒になりかねないのです。

他人の評価は同一ではありません。Aさん、Bさん、Cさんそれぞれが良いと思える絵は別です。それは仕事も同じなのです。特定プラットフォームの評価に固執しすぎると、本来伸ばせるはずの強みを見失ってしまうこともあります。

もちろん人気が仕事に繋がることも

ここまで書いておきつつ、フォロワー数が仕事に繋がる例はあります。例えば一部の広告案件や書籍に表紙、動画などでは「有名イラストレーターが良い」というリクエストが存在するからです。特にWEB広告の場合は、短期的な数字やバズを期待している面があるので、フォロワー数が多いクリエイターの存在はありがたいです。

いずれにしてもそういった業界構造を理解することが仕事の受注に繋がります。フォロワー数は万能ではないので、あくまでも自分の活動・営業スタイルをしっかりとコントロールしていく姿勢が大切になります。少し前まで私も「SNSはやった方が良い」という考えがありましたが、周りや自分自身を振り返ってもそんなに重要でもなかったなと思ってます。営業を考える場合、あくまでもSNSは目的ではなく手段なのです。

プラットフォームのアルゴリズムに振り回されることなく、自身の表現ややりたいことを追求できるのが健全な制作活動だと思います。